英国のエリザベス女王が9月8日の木曜日、スコットランドにある静養先のバルモラル城で亡くなられました。96歳でした。突然の訃報に英国はもちろん、世界中が深い悲しみに包まれています。
エリザベス女王には一度、バッキンガム宮殿でお目にかかったことがあります。「高松宮殿下記念世界文化賞」のレセプションがエリザベス女王ご臨席の下、バッキンガム宮殿で行われたときに、中曽根康弘先生とともに招かれて伺ったのです。ちなみに先生は世界文化賞の日本の国際顧問でした。今から27年前の1995年のことです。
レセプションはエリザベス女王主催で宮殿内のレセプションルームで行われました。先生と同じ国際顧問だった英国のエドワード・ヒース元首相、仏国のレイモン・バール元首相、伊国のアミントーレ・ファンファーニ元首相、米国のデイヴィッド・ロックフェラー・ジュニア氏等々、そうそうたるメンバーが招かれていました。
パーティーが始まってしばらくしてから、私は人に気づかれないように、そっと部屋を抜け出しました。バッキンガム宮殿をちょっと探検してやろうという気分でした。レセプションルーム前の部屋というか空間の両壁面には、歴代の王、女王の肖像画がずらりと飾られていました。その中にヘンリー8世の肖像画を見つけました。ヘンリー8世は6回も結婚を重ねた王で、そのためにイギリス国教会を創設し、カトリック教会から分離させたことで知られます。また、2度目の妻であるアン・ブーリンをロンドン塔で処刑したことや、2人の間に生まれた女の子が、後にエリザベス1世になったことでも知られます。
ヘンリー8世の絵を見ながら6人の妻のことを考えていると、バタンとレセプションルームのドアが閉まる音がして、一人の女性が肖像画を見ている私の方へ歩いてきました。『退屈だから出てきたわ。貴方もそうなの・・・』そう言ってから、私の前にある絵を見て、『この人は女性が好きでね・・・、それでイギリス国教会をつくったのよ』と、色々説明してくださいました。当時69歳の女王は、チャーミングでとても優しい感じでした。女王と2人だけで直接話しができるという夢のような時が流れ、『そろそろ戻らないと皆様に失礼だわね』そうつぶやかれ、女王はレセプションルームに戻られました。暫く1人呆然として、私もレセプションルームに戻りながら、心の中で「女王と話をした!!」と叫んでいました。
バッキンガム宮殿からの帰りの車の中で、中曽根先生に女王と言葉を交わしたことを少し興奮気味に話しました。先生は「ほんとうかい!(群馬弁) それはいい思い出になったね」と我がことのように大変喜んでくださいました。
女王の訃報を聞き、バッキンガム宮殿で女王と2人だけで話をしたことが、つい昨日のことのように思い出されます。
女王陛下のご冥福を心よりお祈り申し上げます。