先日、安倍晋三元総理大臣の1周忌が執り行われました。今でも、安倍総理を中心に保守、真の保守、保守主義、保守主義者等の言葉が渦巻いています。しかし、そもそも保守、保守主義とは何なのか。
中曽根康弘先生は、自著『保守の遺言』(角川書店・2010年出版) の中で、「保守主義」について以下の如く書かれています。
「18世紀のイギリスの保守主義思想家エドマンド・バークは、『保守せんがために改革する』という名言を遺した。すなわち現状を打破するのみで、精神的基礎が非常に薄弱なフランス革命に対するアンチテーゼとして、民族や国家が持つ歴史、伝統、文化を継承する思想として『保守主義』を提唱したのである。ただ、保守というのは、伝統や文化を壊すために改革するのではなく、歴史や文化を大切にし、真の保守に高め、進化させていくために改革が大切なのだということを説いた言葉である。こうしてみてくると、日本の歴史は「保守」そのものであることがわかる。保守という営みの中で、日本の伝統や文化は育まれてきたのだ」。
「保守思想の父」と呼ばれるエドマンド・バーク(1729~1797)について補足しておきます。
バークはイギリス庶民院(下院)の議員を長く務めましたが、彼を一躍有名にしたのは、1790年に発表した『フランス革命についての省察』でした。この中でバークは、1789年に始まった「フランス革命」を批判し、急進的な改革ではなく歴史と伝統を守ることを説きました。その国に従来からある慣習や法を尊重しながら、変える必要があるものは変えていくのが保守主義の本質だと主張したのです。
中曽根先生は保守党である「自由民主党」に所属していましたが、党名の「自由」と「民主」という二つの概念は、相入れないものです。「自由」は、個性的で独自性がある一方、格差を認める社会といえます。ところが「民主」は格差のない平等な社会であり、そのために自由が規制されることもあります。では矛盾したこの二つの概念を結び付けているものは何か?先生はそれを「国民的共同体」であると述べてます。そして共同体の一員として尊重しあい助け合うということで、シビルミニマムが生まれてくるとも述べ、同書の中で以下のように記しています。
「共同体を成立せしめ、そして同胞愛を育ませているものとは何か。それは共同体が持つ固有の歴史である。(中略)先人の知恵や体験の堆積である。つまり歴史であり伝統である。人間の暮らしというのは、過去の歴史や伝統から叡智を学びとることによって成り立っているのだ。
私が長年唱えている保守が守るべき対象とは、共同体が存在する基層と重なっている」。
中曽根先生は、さらに、「日本人は、『天皇制』、『わび、さび』、『ものあわれ』等も加えた変わらぬ伝統、文化、精神性を守り続けてきた。しかし、それだけでなく、新しい外来の文化や文明を非常にうまく消化して、自分の栄養分にしてきた歴史がある。これは聖徳太子以来の伝統であるが、見落としてはならない点だ。(中略)松尾芭蕉流にいえば『不易と流行』である。変わらぬ原則”不易”を持ちながらも、ときどきに発展や展開”流行”をして生まれ変わっていく」と書かれています。
これらはまさにエドマンド・バークが提唱した保守の考えと同じです。バークにいわれるまでもなく、日本人は長い歴史の中で営々として保守を実践してきたのです。国民のDNA に刻まれた民族としての考え方は、今後も本質的部分は変わることはないでしょう。
しかし、そのためには教育がもつ役割が極めて重要です。
日本の歴史と伝統を正しく継承し、維持すると同時に後世に伝えていくことが、今の時代を生きる日本人に課せられています。