元参議院議員 田中しげる

しげるレポート | 田中しげるの活動報告ブログ

政治の中枢の第一義的警戒心―自然災害、大地震へのリスク・危機管理は?!
レポート 2023/09/01

 この夏は、線状降水帯による雨が収まるや、異常な暑さに日本列島が包まれました。この暑さで忘れられがちですが、地震は相変わらず日本の各地で起きています。「関東大震災」を忘れないために設けられた、9月1日の「防災の日」の前日も、岩手や福島で地震が発生していました。
 地震については、この先30年以内に日本列島の太平洋側で起きるとされる、南海トラフや東京直下型の大地震が極めて深刻です。南海トラフ巨大地震では、気象庁が想定している30メートルを超えるような大津波が襲ってきたらどうなるのか?東日本大震災時の津波の悪夢が蘇ります。

 中曽根康弘先生は53年前の防衛庁長官時代(在任期間:1970年1月14日~1971年7月5日)に、東京直下型大震災が起こった場合のシミュレーションを作成されていました。
 中曽根先生が1998年に著した「日本人に言っておきたいこと」(PHP研究所)の中で、以下のごとく記しています。
『昭和45年、私が防衛庁長官の時、東京都の震災を想定して自衛隊の出動に関する調査研究を行い出動計画をつくった。……その概要を明示しよう。今後も同様の出動計画が作成され、年々改訂し、更に毎年、各方面との協力で実施演習を行うべきだからこそ、警告のために古い資料を示す。』
 そして以下の対策を明らかにしました。
『東京都に直下型地震が起きた場合、建物崩壊も合わせて陸橋崩壊、自動車の通行不能、自動車・ガソリンスタンドへの引火、それによる道路輸送の不可能。ヘリコプター輸送中心対策の策定、都内にヘリコプターが臨時着陸でき貯蔵所が可能な場所(公園、学校校庭等)を選定。そこに破壊要員、消化要員、救出要員、食料班及び医療班の配備。
特に地盤脆弱な江東区に津波が発生した場合、地震と津波の大規模複合災害の可能性がある。それを防ぐ特別対策として、習志野空挺団が直行し救援、海水侵入防護を行う。』
 更に、具体的対策も作成されています。
『想定震度5ないし6[※]の地震が冬季の夕食時、東京都、神奈川県を中心に発生し、千葉県、埼玉県にも激甚災害が及び、被害地域は東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県。死者・行方不明者は大正12年の関東大震災を上回る可能性があり、予想出火数約1500件、消火不能約300件、家屋の倒壊約5万5千戸。さらに江東デルタ地帯に津波による水害が起こり、また国の中枢管理機能に大きな被害と混乱が起きる可能性があるというものであった。
これに対応して、東部方面総監指揮下の第一師団(練馬)は都心地区、第十二師団(群馬・相馬原)は神奈川県または都内城西地区、第一空挺団(千葉・習志野)は、江東地区に展開し、増援予定の第六師団(山形・神町)は都内城北地区に、第十師団(名古屋)は都内城南地区に配置させる対策を策定した。
その救援作業はまず、航空機による空中監視、情勢把握、陸海空自衛隊の固定翼機、ヘリコプター等、約101機を予定。事態発生後、昼間は約30分、夜間は約60分経過後に第一機を発進させ、写真撮影、テレビ映像伝送を行い、テレビ電波を市ヶ谷東部方面総監および総理官邸に伝送し、被災地の状況を刻々伝達する。
同時に、指揮通信網を設定し、陸自通信団(主力部隊、久里浜)等をヘリコプターにより通信所開設予定地点に緊急空輸し、市ヶ谷基地を中枢として政府関係、都県庁の通信所に連携、事後増援を得て区役所、国鉄、電電公社、日赤、日通、東京電力、東京ガス等に通信網を拡大する。これらのヘリコプター、航空機ならびに通信系はまた、警察支援の交通統制と政府要人の緊急輸送等を担当する。
人命救助活動は東部方面隊を主力として、これに海上自衛隊、航空自衛隊が協力して人員、車両、航空機、艦艇を投入し、消火・救出作戦の中心正面とする。江東地区や横浜、川崎地区等の臨海地区の被災民は海上自衛隊の艦艇をもって海路救出も分担する。
治療、患者輸送はヘリコプターの着陸可能なデポを中心に、治療隊の展開、ヘリコプターによる患者輸送を行って、陸上自衛隊の10個駐屯地(市ヶ谷、練馬、朝霞、十条、三宿、用賀、小平、立川、大宮、横浜)、海上自衛隊の4基地(横須賀、木更津、下総、館山)、航空自衛隊の4基地(入間、熊谷、百里、木更津)等の使用可能なところに収容する。
その他、道路の啓開は施設部隊を主力とし、毛布の配布、給食の実施、浄水および排水、防疫等の救援活動を行う。それには艦艇による輸送、応急治療等も並行実施する。江東6区ゼロメートル地帯の欠損した水門、堤防等の応急復旧作業隊を派遣する。
以上の救援活動を実施するため、陸上自衛隊は人員約5万3千名、航空機約220機、車両約1万3百両等、海上自衛隊は人員約2千名、航空機約85機、艦艇約50隻、航空自衛隊は人員約2千5百名、航空機約60機等、合計人員約5万7千名、航空機約370機、車両約1万3百両、艦艇約50隻を派遣することとし、そのうち災害発生後6時間後に活動可能な人員、機材は合計約1万2千8百名、航空機約170機、車両約1千495両、艦艇13隻となっている。
 以上が約20年前に策定された派遣計画である。
 その後、交通施設や都市構造、特に高層ビルの建設によって、住民の通勤や生活に大きな変化があり、当時の当該計画が現在そのまま適用できるとは思わない。計画に改良が加えられているはずであろう』。
 中曽根先生が中心となり作成されたこの計画を紹介された理由について、次のように記されています。
『必ず日本のどこかに襲来する大地震津波災害に対する、政治の中枢の第一義的警戒心の必要性を強調するためである』。
 
 今年は関東大震災から100年になります。中曽根先生は総理就任時、後藤田正晴氏を官房長官に就任させた理由を「東京直下型大地震や東海大地震を想定し、震災時の危機管理を踏まえた人事だった」と述べられています。
 真の指導者は危機管理に敏感に反応し素早く行動できる、すなわち初動の重要性を認識している人です。危機管理体制を最も整備している組織は軍隊です。自然災害へのリスク管理・危機管理では、政治の中枢の第一義的警戒として自衛隊を如何に展開活用するかが鍵となります。現在ならば、夜間でも飛ばせる無人ヘリコプターや無人飛行機の活用、原子力発電所への安全対応、更にインターネットを含めたあらゆる通信が不能になるため、自衛隊の訓練された人員と特別緊急通信網等々が必要になります。
 53年前、日本で初めて防衛白書を作成され、大地震への対応策やシミュレーションも行ってこられました。その後、現実に阪神・淡路大震災や東日本大震災が起きました。その経験も踏まえ、大地震対策は何度も練り直されてきたはずです。
 防衛省のホームページには過去の災害対応策、更に首都直下地震災害派遣計画、指揮幕僚活動も掲載されています。しかし、国民により理解されるためには、岸田文雄総理大臣が自ら国民に向かって、政府が取りうる予防措置や、実際に起きた際の救助体制などを語るべきだと思います。
 それが国民にどれだけ安心感を与えるか、考えて頂きたいものです。

※2023年の現在では震度7から8以上と思います。

日本に生まれ育ち、一生を過ごしたいと言える「誇りのもてる国」
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