石破茂内閣が誕生して半年が経ちました。
石破総理は、この半年間で何をしたのか。
総理就任して僅か8日後という戦後最短で何の実績も示せないうちに衆議院解散・総選挙を行いました。果たして自民党は選挙前から56議席も減らし191議席となり、総理が目標としていた自公で過半数(233議席)を下回る215議席という惨憺たる結果でした。
総理就任3カ月後には通常国会が始まりましたが、高額療養費制度では二転三転と見直しが入り、教育改革という国家100年の大計の一環として検討すべき高校授業料無償化を政権維持の手段として矮小化させ、さらに商品券問題では醜態を晒し続けています。
今後、国家として如何なる目標を掲げて国民を導こうとしているのか、残念ながら石破総理からは日本の国家像を全く見ることができません。
約43年前の1982年11月27日、中曽根先生は内閣総理大臣に就任しました。先生の場合、総理就任2ヶ月後の1983年1月には電撃的韓国訪問を成功裏におさめ、同1月の米国訪問ではレーガン大統領と「ロン・ヤス関係」を構築したのです。
その米国訪問での問題点の一つには日本の防衛予算がありました。
当時、東西冷戦下にあってソ連に対抗する必要から、毎年NATO諸国は平均3%以上、米国は6〜7%の防衛費増加を掲げていました。
そうした中、米国は日本にも7%程度の防衛費の増加を要求していました。それで、中曽根先生は12月の予算編成では防衛庁長官と大蔵大臣にとくに直接頼んでいました。
しかし、それにもかかわらず、暮れの29日の夜に各省折衝が終わり、山口光秀主計局長が総理官邸に報告にきましたが、その数字は5.1%でしかありませんでした。先生はすぐに6.5%に改めるよう指示したところ、主計局長は「各省折衝はすべて終わっているので、もう動かせない」と難色を示したのです。
そのとき中曽根先生は大声で怒鳴り「国家予算というものは、総理大臣が対外関係や防衛戦略を考慮して決めるものであって、大蔵省の数字の操作で決めるものではない。とにかく6.5%にしなければ、この予算は認めない。帰ってもう一度竹下君と相談しろ」と叱責したのです。
結果、大蔵省は徹夜で予算を組み替え、翌30日、主計局長が徹夜明けの青い顔で訂正した旨の報告にきました。
このときの背景には、予算は主計局がつくるもので、官邸が干渉できるものではないとする大蔵省側の通念がありました。先生はその認識を頭から覆したかったのです。
実は先生が総理になる前は行政管理庁長官でした。その頃から推進していた行政改革の一つの柱は、大蔵省に牛耳られていた「予算編成権」を臨調に移すことでした。
1982年7月、土光臨調(第二次臨時行政調査会=会長・土光敏夫)の基本答申では、事実上、臨調が予算を決定することになり予算編成権を大蔵省から取り上げたようなものでした。
当時、「増税なき財政再建」を標榜していた臨調は各省の事務次官を呼び、一律およそ一割カットを命じたのです。何をどう削るかは各省に委ね、その結果、ムダな補助金を400億円削減できたのです。
臨調は中曽根内閣の途中から行革審(第1次会長・土光敏夫)へと引き継がれましたが、中曽根先生は1983年度の予算編成にあたり、予算要求の上限(シーリング)を厳しく抑え込んだのです。結果、予算の伸び率は中曽根内閣の初年度にはゼロシーリングを達成し、2年目がマイナス5%となり、それ以降マイナスシーリングを4年間続けたのです。明治以来、現在までこのような内閣はありません。
この時には、総理大臣以下閣僚の給料を3年続けて1割削減し、それを国庫に返納しようとしたところ、法律上できないので、寄付として赤十字本社に贈ったのです。
マイナスシーリングの成果は、1990年度の竹下登内閣予算編成で表れ、15年ぶりに赤字公債を発行せずに組めるようになったのです。
当時と現在では、金融、財政、経済状況も全く異なり、内容的に同様の評価をすることができませんが、総理大臣の資質として強力なリーダーシップがいかに大事であるかは分かります。
中曽根先生の政治手法を一言で表現するなら「指令政治=ディレクティブ・ポリティクス」であると言えます。
ある仕事を始めようとする場合、その半年くらい前に、大筋の構想を紙に書いて、担当の大臣や党の幹部に、「これを半年後に始めたいから、良く研究しておいて欲しい」と事前に指示しておきます。しかるべき時期が来たら、「あれをしよう」と命じます。先生はこの様にして、上からの指示でほとんどの懸案にあたっていたのです。このトップダウンという手法は、単に直感だけでできるものではありません。さまざまなスタッフと相談して、「これをやらなくてはいけない」と自分で掴みだしておく必要があります。
先生の政治哲学は「政治家は実績であり、内閣は仕事である」に尽きます。
石破総理は実績をあげられなければ、さらなる不評をこうむり消え去るだけです。